wallstat解析監修
一般社団法人 工務店フォーラム 理事 鈴木 強
wallstat解析のはじまり
wallstatは京都大学の中川貴文先生が、東京大学在学中から開発されてきた、木造構造解析用ソフトです。縁あって中川先生と2015年から面識を持ち本来は木構造研究者向けに開発されていたwallstatを一般的な住宅に応用する試みが始まりました。
もともとwallstatは研究者向けですので、フリーソフトとはいえ構造力学に詳しくない一般の設計者や住宅会社にとって難解でエラーの原因が不明、解析結果が妥当なものなのか、全ての住宅が解析できるのかなど解析には悩みが多いものでした。幸いにも中川先生のご指導を頂いたことで曲がりなりにも解析ができるようになりました。
wallstat解析でわかった耐震性の重要さ
多くの物件を解析するにつれ、現行の耐震基準である新耐震基準の住宅の脆弱さに非常に驚きました。確かに法律で規定した「極稀に起きる地震」では法律通り倒壊する住宅は皆無でした。むしろ倒壊する住宅を設計する方が難しいと思われるくらいでした。
その一方、6000人以上が亡くなった阪神淡路大震災の地震動では、ほとんどの新耐震基準の住宅が倒壊の解析結果でした。
幸いにして、私が関係する住宅会社では全棟許容応力度構造計算を行っています。許容応力度構造計算した住宅は見事に耐震性を発揮し阪神淡路大震災の地震動では倒壊しませんでした。
今まで、「許容応力度構造計算で耐震性が高い」というPRをお客様にはしていましたが、本当に耐震性が高いという実感を得たのはwallstatの解析を行った時でした。同時に、筋かい仕様の住宅は同じ基準でも弱いことが分かり、私の会社では現在、耐力面材仕様の許容応力構造計算等級2以上を標準仕様としています。
このように住宅の専門家ですら、大地震の時住宅がどうなるかを理解していないのが現状です。
熊本地震が転機に
wallstatの解析を続ける中、2016年4月に起きた熊本地震で、中川先生をはじめ、wallstatでの解析が新しい住宅の倒壊のメカニズムを分析するのに効果的に使われマスコミにも登場しました。当時、私の会社ではお客様に実際に建てるプランでwallstatのシミュレーション動画をお見せするサービスを始めていました。このことが、より安全性の高い住宅建築の技術として取材や製作協力を受けることになりました。
NHKスペシャル「あなたの家が危ない」、静岡第一テレビ「THE SIZUOKA 2016」、池上彰のニュース2016総決算、日経アーキテクチャ「最悪を見せて需要を生む」、日経新聞「住まいナビ」他
wallstatを広げる
実際に住宅を建てるお客様にはwallstatは好評でした。より強い住宅にならないかという声も多数ありました。地震の倍率を上げてどんどん地震を大きくすれば、いつか住宅は必ず倒壊します。どんな地震でも無事な住宅はありません。しかし発生する可能性が現実的な巨大地震で倒壊しない住宅さえ建てれば、その地震による損傷を解析し補修・補強を行うことが可能です。
近い将来には、繰り返し起きる中規模の地震による損傷を把握するための住宅の定期健康診断も夢ではありません。地震による倒壊を防ぐには、最も効果的なのがwallstatです。wallstatはフリーソフトであるため、どこの住宅会社でも使うことができます。そして公平に評価できるのです。
この技術は、消費者の皆さんに広く知っていただいて初めて活用されます。
そこで私は現在、非営利特定活動法人シーデクセマ評議会のカンファレンス、wallstat実務者講習会の講師、一般社団法人工務店フォーラムのwallstatスクーリング、wallstatガイドブックの著作などを通じて工務店や設計者へwallstatを通じて耐震性の高い住宅を建てる実務を教えています。
また、2019年2月に行われた文科省のプロジェクトで、日本最大の実大振動台実験装置を使った木造倒壊実験のwallstatによる解析協力をさせていただきました。
wallstatの解析サービス
まだまだwallstatを使っている工務店や設計者は少数です。そこで今回、工務店フォーラムでは一般の方向けに解析サービスを行うこととなりました。このサービスを通じて、より耐震性の高い住宅が増え、いつか必ず起きる巨大地震で犠牲となる方が一人でも減ることを願ってやみません。